Everybody Genius【経営者はみんな天才!】



岩本泰一 様
日本伸縮管株式会社 社長
事業内容:各種伸縮管継手設計・製作 他
http://www.neuron.ne.jp/

今回は、日本伸縮管株式会社の岩本泰一社長にお伺いしました。
各種プラントシステムに使用される伸縮管継手の設計・製作を手掛けられています。
配管の熱膨張や振動吸収し、破断を防止するための役割を持ち、様々な産業をしっかりと下支えされている製品を作られています。
社員満足度の高い体質を保ち、事業発展に邁進していきたいという岩本社長に、熱い想いを語っていただいてます。



森川:まずは、日本伸縮管さまの事業の内容をお聞かせ下さい。


岩本社長:当社は、各種プラントシステムに使用される伸縮管継手の設計・製作を手掛けております。身近な上下水道などのライフラインから、エネルギー産業や宇宙開発に至るまで、あらゆるパイプラインに不可欠のプラント機器です。伸縮管継手の役割は、配管の熱膨張や振動を吸収するとともに、地震・沈下の際の破断防止が主なところです。
特に現在需要が多い分野はエネルギープラントです。例えば、石油精製プラント。原油をガソリンから重油まで階層精製するプラントシステムですが、ご存知のように昨今、石油高騰の煽りを受けて、需給のバランスを欠いていますのでプラント能力の増強が急務です。そのような高温流体設備には伸縮管が多数設置されます。製鐵や原子力発電も同様ですが、注目すべき新エネルギーの分野では、二酸化炭素排出計算から除外が許される、バイオマス発電が活況です。これは山林の間伐材や汚泥を燃やして熱エネルギーを電力に変えるのですが、そういったプラントは高温パイプラインの塊でして、伸縮管がたくさん使われております。
当業界製品は受注生産品と規格在庫品に大別されますが、当社では、受注生産品のみに特化しております。他方フレキシブルチューブなどの大量生産品は、カタログからいつでも発注でき、在庫から即時販売できますが、当社がターゲットとしている分野には在庫品というものが全くございません。


森川:なるほど。一般汎用品には手を出さず、個別設計製作のみをされていらっしゃるんですね。

岩本社長:そうなんです。ですから製造部門に固定化した製造ラインというものがありませんし、仕掛品が工員の前を自動的に移動して行く、というよりも一品一様の製品に対し、それぞれ技能の異なった職人が、“よってたかって”とでも申しましょうか、みんなで仕掛品を取り囲んで完成品に仕上げてゆく、といった風景なんです。設計部門も同様です。お客様からいただく引合い仕様書ごとに、強度解析や図面作成といった作業をひとつずつ処理しなければなりません。ですから各人のスキル、それよりも毎日の“やる気”が処理能力にモロに直結します。そしてそのことが受注確率や収益に反映いたします。もっと極端な言い方をすれば、自己啓発を永続的にできる社員を育てていくこと以外に、当社の生きる術はないとも思っています。
熔接ロボットなど、すばらしい制御技術の産物もございますが、当社製造部門に限ってはその範疇外の、アナログでローテク、それでいてクラフトの分野、即ち職人にしかできないところだけを狙っていこうと思っております。ですので、会社への帰属心や忠誠心、そして仲間たちとの運命共同体的な連帯感・・・そういうといかにも封建的に聞こえてしまいますね〔笑〕とにかく少数で精鋭、結果的にですが報酬の高い社員に根付いてもらいたい、気持ちよく働いてもらいたい、ということを考えて社内の環境を整える努力をしております。
オフィスや工場の環境には相当配慮しております。また太陽光発電や、最新の知能化制御潅水システムを導入した屋上緑化も完備しておりまして、樹木や菜園などすべて食べられるものを育て、社員の「いこいの場」となっております。
その他、敷地内には流水循環型のビオトープ【動植物生息空間】も整備し、例えばモロコやタナゴといった絶滅危惧種の水生動植物の回生を社員が中心となって、目指しております。


森川:社屋に入って1番最初に目に入ったのが、「SPEED&SAFETY!」。これは、社長の経営理念ですか?


岩本社長:経営理念は「Be Comfortable!」“こころよく、ここちよく”ですね。これが非常に崇高な究極的目標なのですが・・・永遠に求め続けるかもしれません。「SPEED&SAFETY!」は品質方針です。
職務を遂行する上で、あらゆる職種の普遍的なスキルは、一言で言うと「スピード」になるんではないかと私は思っております。
当社は製造業なので、安全管理、即ち「セーフティ」ももちろん重要です。普通両者は対峙する関係にあり、スピードより安全だとか、安全よりスピードだとか。でもどちらも譲れない関係ですので並列均衡と位置付けまして、「SPEED&SAFETY!」といたしました。結構恒久的に使えるスローガンだと思っております。


森川:御社は、常務である弟さんと兄弟で経営をうまくされていらっしゃるとお見受けするのですが、どのようになされているのですか?


岩本社長:いまからちょうど20年前に、東京で機械商社に勤務をしておりました私と、大阪で鉄鋼販売会社に勤めていた弟が同時に父の元に入社いたしました。当時は価値観の違いから、殴り合い寸前の喧嘩をすることがよくありました。最近では少なくなりましたが〔笑〕。
それでも意見の衝突はしょっちゅうです、でもそれは必要なことだと思っております。
そして誰よりも、常務、弟といる時間が結局一番長いんですね。その中で、社長と常務のとき、兄と弟のときのモードチェンジを明確にして、節度をしっかりと持ち続けることが会社全体の一体感や士気高揚に最も重要だと考えております。
常務は、私の一番のライバルであり、一番のアドバイザーであり、そして一番の理解者であるということ。その関係を築けていることが、全社職務が完遂されるまでのバトン・リレーを、速やかな形で保持できている最大の要因だと確信しております。

森川:これまで社長として、「決断」を意識したことはありますか?


岩本社長:20年前に二人で社に戻ったときは150坪の門真工場から数人でスタートし、その後四条畷市(300坪)、大東市(500坪)と拡張移転を重ね、昨年7月にけいはんな学研都市(3400坪)に京都府の誘致を受けて社員30名とともに完全移転いたしました。
これまでで最も大きな決断といえば、12年前の門真市から四条畷市への移転事業であったと思います。
当初から門真工場は手狭になってから久しく、狭い作業場でなんとかしのいでおりましたが、移転が困難であった最大の理由は、主要成型機が移動不可能という致命傷を抱えていたからに他なりません。私どもの取り扱う伸縮管継手の主要部である伸縮部品を「ベローズ」と呼ぶのですが、そのベローズ成型機が、コンクリートに埋め込まれており、移動は即ち解体廃棄を意味するものでした。その機械は職人の創意工夫を重ね、手作りで完成させたものですから、図面すらございません。おまけに使われている部品はもう廃版のものばかりの老朽化したものでした。要するに移転はベローズ成型機の新製作と同時進行する以外に道はありませんでした。特別な専用機ですので、機械メーカーも及び腰でしたし、残念ながら機械に詳しい社員は誰ひとりいませんでした。
万一機械が稼動しないと、製品ができない、製品ができないと・・・最悪倒産を意味しました。
いろいろ考えましたが結局私がやるしかなかったですね。
文系出の私が社運を賭けて、移転&機械製作の英断を下す。当時社長の父は決して賛同はしてくれませんでしたし、弟も不安気だったようです。
ただ、移動可能な、最新のパーツを駆使した、進化したべローズ成型機を作らない限り、当社に未来はない、と考えておりました。
幸いに私は前職の商社でCAD/CAMシステム部の営業技術に居りましたので、図面だけは最先端のCADで書くことはできました。
試行錯誤の末、当時最新の各部品を集積し、想定ではベローズ製作のリードタイムが従来の50~60%という大勝負に出ました。
無我夢中でしたが、結構プレッシャーを感じていたんでしょうね、気が付けば胃に穴を開けていました。食べ物はもちろん流動食も喉を通らず、あたためたアルカリイオン飲料をすする、という日々が何日か続きました。「そんな機械、動けへん、すぐ壊れる!」父も不安だったのでしょう、組立が完成した直後の第一声でした。
結果的にはその成型機が現在までの飛躍のけん引役になりました。文字通り、いまでも「ドル箱」ですよ。その後父も大変喜んでくれまして、私に社の全権を譲る布石になったことは言うまでもございません。
最初の移転プロジェクト、その時が一番の「決断」だったと思います。


森川:会社の将来、業界の将来をどのように考えていらっしゃいますか?


岩本社長:大切なポイントは2つです。
ひとつは研究開発の強化、もうひとつは職人の技能伝承です。
前者、研究開発についての課題は、「金属疲労と金属腐食」という普遍的なテーマです。
この金属の寿命を決定付ける最大のテーマについて何か抜本的なことをこの地、関西学術研究都市で発信したいと思っています。
他の業界の一例で恐縮ですが、レコード盤が光ディスクに変わったためにメンテナンス会社のレベルまで縮小を余儀なくされることは誠に不幸なことです。抜本的な技術開発で1つの業態が死に体になってしまう。このことはどの業界でも起こりうる、という危機意識が最も重要です。
当社の業界では、金属疲労の起きない金属や、熱膨張の発生しない金属が開発されたら、市場のパイのボリュウムは半減します。非常に恐ろしいことですが目をそらしていてはいけません。
それならそこを逆手にとって、自分たちで熱膨張の起きない金属を開発していければ・・・。これはまだ夢のような話で、できればノーベル賞ものです〔笑〕。
後者の技能伝承については、前述いたしましたが、社員満足度の高い企業体質を永続的に維持することをベースに、製缶・成形・熔接というハイレベルなアナログ分野の、人の腕に染み入る技術を高めてゆくことを使命と捉えて、本業に邁進してまいりたいと考えております。